十二国記「東の海神 西の滄海」

 十二国記「東の海神 西のそう海」小野不由美

 延王尚隆の登極して二十年。荒廃していた国がようやく立ち直り始めた頃、尚隆の治世に異を唱える者が、麒麟の六太を捕らえて謀反を起こす。

 尚隆と六太の出会いを回想に挟みながら、謀反を通して王の在り方を問うストーリー。

 国を背負う覚悟が決まっている尚隆がかっこいいし、争いを嫌い、ただ友を大切にしたかった六太の優しさが切ない。それはそうとしてアツユの人間らしい浅ましい欲望が愛おしかった。
 失敗を受け入れる事ができない。アツユも長い間生きてきたのにも関わらず、矮小に育ってしまったのには幼少期に悪い褒められ方をしたのではないか。
 褒める時にいちいち他者をおとしめたり、正解であることだけを褒めたり、間違った時にはその努力を褒めない。
 アツユの失敗への不安、挫折への恐怖の仕方は本当に生まれてこの方正しい転び方をしたことがないんだな、と思った。
 アツユを育てた人間の過保護な愛情が透けて見えました。
 ただ、十二国記では二十歳を過ぎたら強制的に親元を離れて独り立ちするので、親が過保護だったとしても離れられるし、歪んだプライドに気づくチャンスはたくさんあったと思うんだけど。アツユは賢いし人望もあり、勇気もあるから「失敗への恐怖」を克服しなくても生きてこれちゃったんだろうな。自分の弱点が最低の形で露呈し、最悪の結末を招いてしまって少し可哀想になった。
 自分の弱さと向き合ってこなかった報いなので自業自得と言えばそれまでだけど。

 アツユにとても親近感が湧いてしまった。
 今では失敗が怖くないけど、一昔前は間違えることが本当に怖かった。
 正しい転び方、受け身の取り方、転んでも立ち上がる力を学ぶ事は大切だよなと改めて思いました。