加藤和樹さん握手会 2024/4/29

2024年4月29日(月)祝日
@錦糸町パルコ内 タワーレコード
加藤和樹さん 「Liberation Box」発売記念イベント 握手会&ポスターお渡し会

16:00~整理券配布
17:30~1回目握手会
19:30~2回目握手会

15時にタワレコに到着。まだ並んでいなかったのでカフェで一服して、15:40頃にもう一度見に行くと60~70人くらい並んでました。出遅れた…!
CDを1枚買って無事に整理券をゲット。
友人とお茶をしつつ時間をつぶして、17;10頃に再びタワレコに。すでに100人くらい並んでました。
人数が多くても列がスムーズに進んでいたので、握手できる時間は短いのかな? 残念だけど仕方ないな、と思っていましたが、いざ他の人が握手しているのを観察していると、そんなことはない。がっつり手を握って、机を挟んでいるにもかかわらずめちゃくちゃ距離が近くて、相手の顔をしっかりと見つめて話し込んでいらっしゃる。
事前にXで情報収集してたとおり、加藤和樹さんめっちゃ神対応やん…。
他の人が握手しているのを見ているだけで大分満たされました。握手できたファンたち、涙ぐんだり、拝んだり、キャー!と黄色い声をあげたり、いい反応してました。

順番がまわってきました。
加藤和樹さん。
まじで美しい。
握手はぎゅっと握ってくださると事前情報で得ていましたが、いざぎゅっとされると心臓もぎゅっとわしづかみにされて喜びのあまり声がでない。
ファントムの感想を伝えたかったので「ふぁ……」で止まっていると、
「ん?」
て顔を近づけて、声を聞き取ろうとしてくださる。じっと目を見つめてそらさない。握手も絶対に離さないよという意志を感じる。
「ファントムのブルーレイ買いました。かっこよかったです」
なんとか伝えると、スタッフさんに肩トントンされて時間がきてしまう。手を離して去ろうとすると、加藤和樹さんがもう一度強く手を握り直してくれて、
「ライブにも来てね」
と微笑んでくれました。

お噂通りにファンのひとりひとりを大切にされていて、握手券もたくさんご用意されていて、来場者全員と握手してくれたんだろうな、と思いました。
素敵な方でした。
日程があえばライブにも参戦したいと思いました。

「メディア/イアソン」感想

メディア/イアソン
2024年3月23日、29日
世田谷パブリックシアター
4月4日
兵庫県立芸術文化センター中ホール


 ギリシャ悲劇「メディア」を元に、メディアとイアソンの出会いから、最後の悲劇までを描いた物語。「アルゴナウティカ アルゴ船物語」よりイアソンの冒険譚にはじまり、メディアとの恋やアイエテスからの試練も子細に組み込まれていた。 2時間の演目とは思えない密度で、ふたりの半生が描かれている。
 復讐劇であり、家族を殺す、特に子殺しがメインとなっていて、人間の悪感情があらわになるシーンが多くて、後味の悪い物語でした。
 創作上の悪い人間、弱い人間が大好きで、後味の悪い物語も大好きなので、大好きです。

 ふたりの子供たちが語り部となり、父と母の物語をひもといていく演出は面白かった。初見では誰かわからなかったけど、振り返ってみてふたりの子供たちが自分を殺した親の物語を語るというのは、とても残酷で悪趣味な視点だなと感じました。とても好みです。
 2024年2月にテニミュサードで三浦さんにはまってしまったので、三浦さんをひとめ見たいな、という軽い気持ちで見に行った演劇でしたが、最終的には3回も観劇してしまうほど面白くて、魅力的な作品でした。
 森新太郎さんの演出はパンフレットにあった通り、光と影の織りなす光景が美しくて、極限までそぎ落としたスタイリッシュな舞台と相まって、影絵のようにきれいでした。衣装も主役のふたりは白、他複数役を演じる3人は黒のワンピースで一見すると黒子にも見える。役の切り替えは衣装や小道具に頼るのではなく、声、動き、雰囲気、にかかっており、役者自身の演技力が丸裸にされる感じでした。お三方ともとても上手で、特に冒頭で、水野さんが子供役から叔父役に切り替わるときはハッとさせられました。

 音楽も好みでした。4幕のメディアの独白時からずっと流れ続ける不快な通奏低音がとてもよかたし、部屋にこもるメディアが登場する直前のカラスの鳴き声や、船上に現れたアプシュルトスの最期の台詞のあとの不穏な波音、人を不安にさせる音の使い方がとてもよかったです。

 個々の役者さんの所感

 井上芳雄さん
 声がひとりだけハイレゾ。
 声が本当に本当にきれいで迫力がありよく通って滑舌がよくて説得力があって、世界の端まで届くんじゃないかと思いました。人間の声は口から出るのではなく、体中から響くんだなと。
 金羊毛を手に入れた瞬間の、イアソンの利己的で浅はかな人間性の出たような笑い方がとてもよかったです。この演目で初めて井上さんの演技を見たので、プリンスな井上さんもちゃんとみてみたいです。

南沢奈央さん
 4幕冒頭のメディアの嘆きがとても好きでした。人ならざる者のようなうめき声。椅子に座り、片腕をあげた姿勢がまるで屍肉を目の前にお預けを食らうハイエナのよう。目を爛々とさせて恨み辛みを吐き出す姿が恐ろしくて、美しかったです。
 子殺しを戸惑いながらも、己を馬鹿にした人間をそのままにできるはずもないと、己のプライドのためにかわいい子供たちに手をかける決意をするシーンもとてもよかった。子供たちを殺すためにゆっくりと歩き、幕が降りるシーンは背筋が凍った。好きです。

加茂智里さん
 アイエテス王が本当に底意地の悪いおじいさんにしか見えなくて、20代の女性が演じられているとは思えなかった。威厳があり、老獪な王であるのに、「かわいいかわいいアプシュルトス」と呼びかけるときだけ親馬鹿で寂しい老人の顔をのぞかせるのがとてもよかったです。
 アプシュルトスの亡骸を集めるところ、アイエテスのうめき声が怒りよりも悲しみの方が勝っていそうなところも好きです。加茂さんの解釈なのかな?と思いました。
 最後、今までストーリーテラーとしては話すことのなかった双子の姉が初めて口を開くシーンは、パンフレットにも「気持ち悪いタイミングで話し始めたい」とあったように、ここで?というタイミングで驚きました。初見時はもう終幕だな、と気を抜いた瞬間に話し始めたので、体がこわばりました。

水野貴以さん
 変幻自在の役者さん。冒頭で子供から叔父に切り替わるところで、本当に演者が変わったのかと思った。愛らしい容姿にかわいい歌声、なのに男性役をやると本当に男の人に見えました。
 子供の役で、末の妹を演じられているときに、双子の弟である三浦さんに甘えている姿がとても愛らしくて、好きでした。次の世では幸せになってほしい。
 
三浦宏規さん
 すべてにおいて想像を超えてきてとても驚きました。
 歌とダンスのイメージしかなかったのでストプレいけるの? と若干心配していたのですが、完全に杞憂でした。すみませんでした。ありがとうございました。
 ストリーテラーとしての双子の弟、優しさと哀しみの入り交じった表情が切なくて、末の妹に語りかけるあたたかな声がとても好きです。
 ヘラクレス。神話の英雄。豪傑であり、イアソンを導く者。年上の井上芳雄さんに負けずとも劣らない勢いのある演技でした。
 アプシュルトス。
 かわいいかわいいアプシュルトス……。
 本当に、かわいかったです。
 178センチの長身なのに、加茂さん演じるアイエテス王に対して上目遣いで見つめたり、膝の上に収まったり、視界がゆがんだのかと思いました。本当にかわいいかわいい、小さな男の子でした。
 キャー、うふふ、エヘ、みたいな鳴き声を発するのもかわいすぎて…かわいかったです。
「ねえさま、海をわたってみたっかたんだ」
と最期の言葉を残してバラバラにされるところで、冷たく澄んだカタルシスがあふれました。
 使いの者。渾身の長台詞は、若い花嫁と父親の無残な死に様を鮮明に思い起こさせる語り口で、おもわず引き込まれる演技でした。緩急の付け方も、声の強弱も心地よくて、ずっと聞いていたかったです。

 三浦さん目当てで見に行った「メディア/イアソン」でしたが、ストーリー、演出、演者さん、すべてがよくて最高でした。映像にも音声にも残らないのが本当に本当に残念です。再演されることを願っています。

 

ぬいぐるみを作るくらいにハマったのは本当に初めてでありがたい限りです。

演劇を生で観たのが5年ぶりくらいで、何度も見たのは初めてです。ありがとうございました。

 

以下はXで書き殴っていた感想

備忘録として残しときます

 

 

一緒に観てくれた人に前もってギリシャ神話予習しといた方がいいよ!と知ったかぶりしてたのに開演前に何も分かってなくてパンフ開いて解説してもらいました 頭がふわふわで申し訳なかったです

 


夫に裏切られた女の復讐が主題だけど、ストーリーテラーに夫婦の子供が選ばれてるのすごいよかったな

 


演者が5人しかいなくて、主演の2人以外の3人が入れ替わり立ち替わりいろんな役を演じられてて切替のタイミング毎にゾクゾクしました 役者さんってすごいな 女の人が年老いた王を演じてたんだけど、まじで年老いた王ですごかったです

 


照明の使い方が印象的で、光と影のみで描かれる空間の切り分けがとてもよかった あと舞台を板で区切ることでできあがる狭い空間、小物による炎や動物の表現、演出がシンプルなのに凝っててよかった

 


三浦くんが実姉に殺されるところと、実母に殺されるところは大変興奮しました ありがとうございました 無垢を演じる推しが劇中で2回も殺される 最高 最高 最高のショーやで

 

 

 

いるはずのないアプシュルトスが船上に現れるシーンで、メディアがこいつを殺せば追手から逃れられる…と悪魔の閃きを得ている間、アプシュルトスは初めての船から見た海に目をキラキラさせてたんだと思うと胸がギュッとなって、大変興奮します

 


演者さんみなさんレベルが高くて、こんなにレベルの高い人たちの中に混じっても遜色ない三浦宏規くん、本当に本当にほんっとーに役者さんとして上手くなったなぁ〜〜〜〜としみじみ思いました 知ってまだ1ヶ月だけど生まれてから見守っている乳母の気持ちで観ていました

 


召使のとこもよかった メディアから問われて姫様とクレオンの死に様を長々と語らせられる三浦くん、とてもとてもとても引き込まれました あと100回は観たいよ

 


召使三浦、メディアとイアソンの誠心誠意尽くしてきたんだろうなという誠実さと、イアソンの新しい妻の姫や王にも優しくて、狂ったメディアと優柔不断なイアソンにも情を持ち続けてるのがあの一瞬で見てとれて、すごかったなぁ

 


私もアプシュルトスの父王になって「左足…右足…左腕…右腕…」てバラバラになった遺体をかき集めたいよ

 

 

 

じわじわ面白かったな!と思っている メディア/イアソン、とてもいい演劇でした ありがとうございました

 

 

 

音楽もよかったんですよ イアソンが新しい女に走った後のメディアの独白のあたりからずっと不快な低音が流れてて、静かな狂気が足元から這い寄ってくる感じがとても好きでした

 


井上芳雄さんは初めて演じてるところを観たんだけど、すごい人なんだなぁとしみじみ思いました 声が世界の果てまで届くんじゃないかと思った きれいな声で怖かった

 


イアソンは終始クズで、作られたクズではなくて真性の生まれ持った純正のクズでなかなかよかった クズ界のスター 俺は悪くないを素でいく とても良い

 


メディアの子供として殺されるとは悲鳴もありだったのでそれもすごくよかったなぁ〜〜〜 朧気だけど「逃げなきゃ、逃げられない」とか「キャアー」とか「母さま…」とか言ってた気がする 恐ろしく澄んだ悲鳴だった 最高 最高

 


アプシュルトスの時の三浦くん、本当に本当に優しくて澄んだ心を持つかわいい弟になってて、本当にかわいかったなぁ…思い出すとかわいいに拍車がかかる かわいいよ

 


アプシュルトス♡四肢切断されて♡遺棄されて♡

 


竪琴で体を隠すようにずっとおどおどしてるのに、国から逃げたメディアを追って船に乗り海を見たいとひとりで決断したんだよね とても勇気があるね かわいいね

 


船上でメディアとイアソンの言い争いがどん詰まりになってから、アプシュルトスが出てくるまでの間が長くて、アプシュルトスがゆっくりと歩いてくるシーンもよかったなぁ 間の取り方が絶妙で気持ち悪くて印象に残る

 


ヘラクレスもなんやかんやで離島?に置いてけぼりにされて悲惨な最期を迎えていたな?取り残されて死、バラバラ死、刺されて死、3回死んどるやないか ありがとうございました

 


炎の舞は美しくて迫力あって華やかでよかったし、太陽が昇って沈んでゆくのを軸がぶれることなく均一のペースでできるのやばかったな 

 


夫への復讐に母から殺される子供たちをストーリーテラーにしようと思いついた演出家の森新太郎、普通に悪趣味で好き

 


メディアとイアソンの愚かで卑怯な魅力を引き立たせるために他キャラの純粋無垢な部分を大きくみせてるんだろうけど、水野さん加茂さん三浦くんの役割分担が三浦くん99%純粋無垢みたいな感じでよかったです 森新太郎の三浦解釈が最高でした ありがとうございました

 


父王から「かわいいかわいいアプシュルトス」て呼ばれて父王の膝におさまるアプシュルトス、最高にかわいくて悲鳴が出そうだった 父王が加茂さん(160センチ)で、三浦くん(178センチ)がショタで、身長差がおかしいのに本当にアプシュルトスが小さくてかわいいんですよ かわいいね

 


水野さんも加茂さんも、女性なのに男性の役がハマりすぎて演劇っておもしれぇ〜〜〜〜!!!!てなる 子供を演じてた水野さんが急に叔父さんに変わるところ、本当にスイッチの入れ替えがすごい

 


子役の水野さん「たのしみだね」

叔父役の水野さん「イアソン」

落差がほんまにすごかったなぁ

 


アプシュルトス、セリフが半角カタカナだし顔が(>人<;)(*´꒳`*)こんなだし、内股でおどおどしてるし、セリフのあとにキャー///ウフフ///つけるのほんまずるい かわいすぎて狂う 守ってあげたいしバラバラにしたい

 


アプシュルトス「姉様(*´꒳`*)海を渡ってみたかったんだ///ウフフ、エヘ」

メディア姉様「弟を切り刻んで海に捨てた」

 

 

 

バラバラアプシュルトスの直後に、メディアとイアソンのラブシーンが入るのもほんまに悪趣味♡♡♡

 


かわいいかわいいアプシュルトス、地面に座り込んで父王の演説を聞いてるところで、父王が杖をダンッ!て突いたら地面からピョンて少し浮いててはちゃめちゃにかわいかったです かわいいよ

 


もうアプシュルトスにもヘラクレスにも子供たちにも会えないんだと思うと感極まってしまって、三浦くんが太陽を昇らせて沈ませるところで泣いてしまった もう…会えない…?意味がわかりません

 


メディアが子殺しを決意した後にこども達の手をとって「ここではない土地で幸せになるのよ…ここでの幸せはお父様が壊してしまったから…」て泣くとこ、こどもを自分の所有物としてしか考えてなくて好きでした

 


自分の延長線にこどもがいて、可哀想で弱い自分(こどもたち)はこの地で殺して、新しい土地で幸せを掴もうとしたんですか?

 


メディアとイアソンの痴情のもつれはあまり興味なかったんだけど、イアソンの真正クズとしかいいようのない卑劣で他責な性格と、メディアの過ぎた献身からうかがえる歪んだ自己愛が面白かったです

 

十二国記「東の海神 西の滄海」

 十二国記「東の海神 西のそう海」小野不由美

 延王尚隆の登極して二十年。荒廃していた国がようやく立ち直り始めた頃、尚隆の治世に異を唱える者が、麒麟の六太を捕らえて謀反を起こす。

 尚隆と六太の出会いを回想に挟みながら、謀反を通して王の在り方を問うストーリー。

 国を背負う覚悟が決まっている尚隆がかっこいいし、争いを嫌い、ただ友を大切にしたかった六太の優しさが切ない。それはそうとしてアツユの人間らしい浅ましい欲望が愛おしかった。
 失敗を受け入れる事ができない。アツユも長い間生きてきたのにも関わらず、矮小に育ってしまったのには幼少期に悪い褒められ方をしたのではないか。
 褒める時にいちいち他者をおとしめたり、正解であることだけを褒めたり、間違った時にはその努力を褒めない。
 アツユの失敗への不安、挫折への恐怖の仕方は本当に生まれてこの方正しい転び方をしたことがないんだな、と思った。
 アツユを育てた人間の過保護な愛情が透けて見えました。
 ただ、十二国記では二十歳を過ぎたら強制的に親元を離れて独り立ちするので、親が過保護だったとしても離れられるし、歪んだプライドに気づくチャンスはたくさんあったと思うんだけど。アツユは賢いし人望もあり、勇気もあるから「失敗への恐怖」を克服しなくても生きてこれちゃったんだろうな。自分の弱点が最低の形で露呈し、最悪の結末を招いてしまって少し可哀想になった。
 自分の弱さと向き合ってこなかった報いなので自業自得と言えばそれまでだけど。

 アツユにとても親近感が湧いてしまった。
 今では失敗が怖くないけど、一昔前は間違えることが本当に怖かった。
 正しい転び方、受け身の取り方、転んでも立ち上がる力を学ぶ事は大切だよなと改めて思いました。

十二国記「図南の翼」感想

十二国記 「図南の翼」小野不由美


 恭国は王不在のまま二十七年が過ぎた。治安は乱れ、妖魔は徘徊し、国は傾いていた。首都に住む十二歳の少女珠晶は豪商の父のもと、何不自由なく暮らしていたが、国の行く末を思い昇山を決意する。
 珠晶が昇山し、王に選ばれるまでの冒険譚。


 黄海を渡る旅路で利広や頑丘に出会い、珠晶は様々な人種、仕事に出会って成長する。けれど珠晶の人間としての根幹はいつも揺らがない。
 目の前の現実を受け止めて、自分になにができるのか常に考え、発言し、行動できる強さがある。珠晶のいいところはたくさんあるけれど、考えることをやめないところが一番好き。
 根拠のない自信で傲慢になったり、卑屈が過ぎて矮小にならない。簡単なようで難しい。現実と向き合うこと、丸裸の自分と向き合うことはとても難しいから。

 供麒が王気を見たと言った後に頬をはたいたところはとてもよかった。ご褒美が過ぎます。供麒と珠晶の絡みがもっと見たかった。

十二国記「風の海 迷宮の岸」感想

 十二国記「風の海 迷宮の岸」 小野不由美

 人の子として育った麒麟が国に戻り王を選定するまでの苦悩と葛藤を描き、王となる驍宗をはじめ、周囲の人々との交友を通して泰麒が麒麟として成長する話。

 魔性の子の高里が十歳の頃に神隠しにあったときの戴国側の物語。魔性の子ではミステリアスで大人びた印象だった高里が、風の海~ではいとけない子供として描かれていてギャップがすごい。
 高里と話せば呪われると言われ、厄災の象徴だった彼は、風の海~では国に安定と繁栄をもたらす王を選ぶ麒麟であり、希望として描かれている。風の海~を読むことで魔性の子では読み取れなかった背景が理解できて、物語も深まり、なにより広瀬の絶望がより鮮やかになってよかった。高里は天帝に選ばれた麒麟であり、広瀬はやはりただの人でしかなかった。広瀬の言う帰る場所はどこにもない。(私は広瀬の妬みと浅慮にまみれた絶望がとても愛おしい。)

 泰麒。麒麟だから人として暮らせるはずもなく、家族から疎まれ、居場所がなかった。戴国に来て、自分は麒麟だったから蓬莱(日本)になじめなかったのだと理解するも、出生から十年も蓬莱に居たため麒麟としての能力を発揮できずに落ち込んでいた。責務を果たせないと嘆く泰麒に、しかし蓬山の女仙達は優しい。麒麟を育てることが女仙たちの唯一最大の仕事だからだ。
 女仙たちは仙人だから外見は変わらない。美しいお姉さん達が十歳のいとけない美少年をよしよしして甘やかす図はとてもオネショタだった。
 家族に愛されず、自尊感情が低く、自信がない。ただ、卑屈にならずに素直なままで居れたのは麒麟の性質なのかな。優しく憐れみ深く、血腥さを嫌う。麒麟は所詮ケモノで、王を選ぶための装置だからそんな性格に創造されたのかな。少し可哀想。

 景麒。前シリーズでも陽子に対する説明不足と短慮が目立っていたが、今シリーズでも圧倒的な言葉足らずと短慮で十歳のなにも知らない麒麟である泰麒を泣かせていて最低な無神経男でとても好きだった。
 景麒も生まれてから蓬山で女仙達に甘やかされて傅かれて生きてきたからまぁ、仕方ないのかもしれない。

 驍宗。男の中の男。王に選ばれなかったら国を離れる決意をしていた男。王に選ばれなかった事実に対して、幼い麒麟に「私は恥をかくことに慣れていない」と素直に吐露できるのはすごい。まだ子供だから開けっぴろげにできたのかもしれないけども。

 驍宗に対する泰麒のまなざしが初めての恋に戸惑う深窓の令嬢みがあってとてもよかった。景麒の説明不足で王気がどのようなものかわからず、ただ驍宗と離れたくない一心で麒麟に転変し、彼を追いかけるシーンは胸が高鳴った。転変を解いた裸の泰麒に袍をかけてやる驍宗。袍をまとっただけの格好で驍宗の足に額づく泰麒。漫画や映画を見ているわけでもないのに映像がクリアに見えて、小野不由美の読ませて想像させる力はすごい。
 驍宗は確かに王なんだけど、泰麒は【天啓】や【王気】がなにかわからなかったため、自分が驍宗を王に選んだのは驍宗と離れたくないという自分のわがままだと思い悩んでしまう。天帝に知られてしまえば自分だけでなく、驍宗まで罰を与えられるのではと心配する。思い悩み、自室でひとり膝を抱えるシーンはとても可愛い。延王に額づこうとして頭が下がらずに押さえつけられるシーンは新雪を汚す心地で原初の欲が満たされていく感じがする。

 なにもかも景麒の説明不足が悪い。でも、麒麟は天の意思が通り過ぎていくだけの獣にすぎないので、景麒が説明できないのも仕方ないね。でも景麒が悪い。言葉足らずな景麒が好きです。

 赤い実はじけた! みたいな話でした。